・上場企業の不祥事により、株価が下落した場合、株主はその企業に対して裁判で損失額を請求し、取り返すことが可能です。
・株式を処分した株主でも、継続保有している株主でも、裁判を起こせます。
・集団訴訟を利用することで、低コスト・低負担で裁判に参加することができます。
株式投資は当然株価の下落リスクを抱えます。一般的に、投資リスクはすべて投資家の自己責任と考えられているため、投資家が保有している銘柄の株価が急落してしまった場合、その損失はすべて投資家が負担しているのが現状です。
一方で、上場企業は投資家に対して、有価証券報告書などの開示資料を通じて説明責任を負っています。仮に、開示資料の中に虚偽や不十分な記載があり、それが発覚した際に株価が急落した場合には、投資家の損失は虚偽記載をした上場企業が負担するのが本来あるべき姿といえます。
そこで、金融商品取引法では、一定の条件を満たせば、裁判を通じて虚偽記載等により下落した金額額を、投資家が上場会社に請求することを可能にしています。以下、この裁判を「証券訴訟」と呼びます。
金融商品取引法では、上場企業が開示資料に虚偽の記載をした場合、または重要な事実を記載しなかった場合、これらの虚偽記載発覚によって、株価下落の損失を被った投資家は上場企業に対して損害賠償請求が可能と定めています(金融商品取引法21条の2)
証券訴訟を起こすための主な条件は以下のとおりです
①虚偽記載のある開示書類が公表されている間に、株式を購入したこと
②企業の虚偽記載が発覚した時点で、株式を保有していること
③(既に株式を処分している場合)株式の取得価格>株式の処分価格であること
④(株式を継続保有している場合)株式の取得価格>現時点の株価であること
仮の具体例を用いてご説明します。
・上場企業A社は、2019年3月期および2020年3月期の有価証券報告書に過去最高の売上を記載
・売上増に伴い、A社の株価は1000円から2000円まで上昇
・2021年6月30日に、A社は過去2年間、架空取引により売上の大半を水増ししていたことを公表。架空取引の発覚後、A社の株価は2000円から500円まで下落
・株主Bは、A社の株式を、2020年4月に1株2000円で1000株購入(計200万円)。架空取引の発覚後2021年8月1日に全株売却したが、売却時の株価は1株500円で、150万円の損失が確定した
この例を、上記の①から④の条件に当てはめてみます。
①まず株主Bは2020年4月に株式を購入しています。この時点でA社は有価証券報告書に虚偽の売上等を記載していたので、虚偽記載のある開示書類が公表されている間に、株式を購入したことの条件を満たします。
②株主Bは、虚偽記載が発覚した2021年6月30日時点で1000株を保有しており、企業の虚偽記載が発覚した時点で、当該企業の株式を保有していることも満たしています
③株主Bの取得価格は2000円で、処分時の株価は500円です。株式の取得価格が、処分時の株価を上回っているため、Bは証券訴訟を起こして、A社に対して損失額150万円の損害賠償請求が可能です。
④仮に株主BがA社株を保有し続けていた場合、A社の株価が500円のままであれば、株式の取得価格が、現時点の株価を上回っているため、Bは証券訴訟を起こして、A社に対して損失額150万円の損害賠償請求が可能です。
それでは150万円の請求金額のうち、実際に何割が返ってくるのでしょうか。こちらは裁判所の判断によりますが、過去の裁判の例では9割程度の金額が返金されている事例(ライブドア事件最高裁判決平成24年3月13日)もあります。
「裁判はお金と手間がかかって大変」というイメージをお持ちの方が多いと思います。
一方で、証券訴訟においては、集団訴訟という方法を取ることで、低コスト・低負担で裁判に参加して損失を取り返すことが可能です。
集団訴訟とは、大まかにいうと、共通の利害関係を持つ複数の原告が、同時に被告を訴える訴訟です。証券訴訟では、複数の株主が集まって、虚偽記載をして株価を下落させた企業を訴えることになります。
複数の株主が同じ弁護士事務所に裁判を依頼するので、弁護士費用を折半することができ、特に初期費用はほぼゼロ円で依頼することも場合によっては可能です(低コスト)。また、証券訴訟の場合は、株式の取引履歴を最初に提出してもらえれば、弁護士事務所や裁判所に来てもらう必要はほぼありません(低負担)。
集団訴訟の参加方法や留意点など詳細は別記事にてご紹介します。